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アメリカ西海岸、カリフォルニア州の南端にある大きな都市です。約270万人が暮らしており、メキシコとの国境の街です。映画「トップガン」の舞台や2006年WBCで日本が世界一を獲得した場所でもあります。気候は一年中温暖で雨が少なく、マリンスポーツやゴルフが楽しめます。サンディエゴ湾は世界でも数少ない自然港で6000隻ものヨットが泊まっています。観光スポットとしては世界最大規模のサンディエゴZooやシーワールドなどがあります。

カリフォルニア州の薬剤師の学会。アメリカで一番レベルが高いです。
今年は10/1~4にサンディエゴのTown&Country Hotelで開催されました。
CSHP(California Society of Health-system Pharmacists)は1962年に創立され、かつてはCalifornia Society of Hospital Pharmacistsだったが、病院薬剤師という位がなくなったため名前が変わりました。
CSHPは基本的には病院に勤めている人の学会であり、参加者約3000人のうち2/3は薬剤師、残り1/3は学生。そのほか企業も参加しています。
学会は大まかに分けると就職や教育、製薬会社のアピールの場となっています。

アメリカの薬剤師免許

アメリカは州ごとに薬剤師免許があり、更新制(日本は国家資格・更新なし)。
ただし、クロスライセンス制度があり他の州でも働けるが、カリフォルニア州だけが認めていません(試験が難しく、一番レベルが高いため)。 そのためカリフォルニア州の薬剤師は隣のアリゾナ州の免許も取ればどこの州でも働けます。アメリカの薬学部では4年制を卒業するともらえるRPH(Registered Pharmacist)に加え、1965年に6年制のPharm.Dコース(Docter of Pharmacy)ができました(基礎薬学2年+専門薬学4年)。2000年6月からは薬剤師免許の受験資格がPharm.D取得者のみとなりました。
他にPh.D(Docter of Philosophy)もあるが、論文を書かないともらえない(日本の薬学部で博士課程を卒業すると得られるのはPh.Dに相当)。
下の写真は横山グレンさん。全米No.1のUCSFの教授。元ハンチントン記念病院、元LAカイザー病院の薬局長。
日本人的であり、人望が厚く、1978年にCSHPのファーマシスト・オブ・ザ・イヤーに選ばれました。

Residency Showcase

レジデンシー(研修)プログラムの展示ブース。 研修プログラムを持つ病院が参加し、志願者への情報提供と志願者募集を行っています。アメリカで臨床薬剤師になるためにはPharm.Dを取得するだけでなく、卒業後1~2年、レジデンシープログラムで研修する必要があります。
研修先はマッチングシステムによって決定。マッチングシステムとは、志願者が希望するプログラムに願書を提出し、面接を終えた後、希望する研修の順に順位をつけて提出する。同様にプログラム側も面接を終えた後、希望する志願者に順位をつけて提出します。したがって、すべての志願者が研修をできるわけではなく、年々競争率が高くなってきています。

企業の出展ブース

製薬会社の製品PRの場。
アメリカのMRは病院に行く習慣がないので製品をアピールする機会が少ない。
日本でもなじみのあるグラクソ・スミス・クラインやノバルティス、サノフィアベンティス、アステラス、アストラゼネカなど約90社が出展。
製品としてはペン型インスリンやアドエア、クレストール、輸液など。

Poster Session

研究のポスター発表。
発表者がポスターの前にいるところもあり、説明や質問に答えてくれます。
15年前はポスターセッションだけで会場が埋まったが今では1/3以下の40題に。
アメリカのヘルスケア・ファーマシストは外来専門。アメリカの平均入院日数は5日なので入院患者に対してできることが限界となっています。やることが減って活動が以前の1/6になりました。大病院しか発表しておらず、病院で働いている薬剤師の立場が苦しくなっていることが伺えます。

発表演題は、「外科手術におけるワ―ファリンの中止に対するビタミンK」や「新生児集中治療室での全ての栄養素がワンパックに入っている輸液の安全性」など。
保険会社のカイザーが経営している病院の発表で、「特定の患者への電話により薬を取りに来る率が良くなる」という発表がありました。
薬を取りに来ない高血圧症の患者さんを対象に薬局薬剤師が電話を掛け、B-SMaRTという型に沿って話を進めます。薬を取りに来られない理由を聞いて、取りに来るのを忘れるのはよくあることだよねと共感を示し、あなたの治療のゴールはなんですか?とモチベーションを上げてあげると薬を取りに来る率が58%から79%に上がるというものでした。
カイザーの病院は外来患者をたくさん抱えており、門前の薬局もカイザーが経営しているのでこのような発表ができます。

Continuing Pharmacy Education(CPE)

生涯教育用の講演会。
アメリカでは薬剤師免許を更新するために一定時間のCE単位を取得しなければなりません。
講演会に出席し、名簿に名前を記入、オンラインで請求すると単位がもらえます。「ヘルスケア・ファーマシストとガイドライン尊守」内容はメディケアという公的医療保険に多大な医療費がかかっているので、薬剤師がもっと関わって治療のガイドラインを守るようにすれば医療費の無駄を減らせるというものでしたが、具体的に何をするべきかという話は出てきませんでした。

まとめ

学会というと主に研究発表の場で堅苦しいのをイメージしていましたが、CSHPの学会は印象が違い、教育の場としての役割が大きいと感じました。アメリカの薬剤師免許は更新制で薬剤師が勉強熱心なのもうなずけます。アメリカの30年も後を追っている日本としても免許が更新制になったり、病院薬剤師がなくなる日が来るのかもしれないと思いました。

メディカルセンター(VASDHS:退役軍人サンディエゴヘルスケアシステム)は一言で言うと退役軍人のための大規模な病院です。
アメリカ合衆国では1989年に設立された退役軍人局(VA:The Veterans Affairs)により、退役した軍人への身体への補償の一環として退役軍人を対象とした医療施設での治療が安価で受けることができるのです。もし、低所得のために支払いが困難であればそれもすべて免除されるそうです。公的な医療保険のメディケアでも、薬剤費が全額負担になってしまうアメリカではこのシステムの存在が国民の入隊を促進しているといっても過言ではないと言えます。

VASDHS(退役軍人サンディエゴヘルスケアシステム)は大規模で入院施設を有するメディカルセンターだけでなく、サンディエゴ内に6施設のクリニックと2つの退役軍人センター(カウンセリング施設)を運営しています。
アメリカでは一般的なオープンシステムをとっており、例えば、クリニックに通院している患者に入院が必要になった場合、クリニックの医師による手続きでメディカルセンターに入院した後もそのまま担当医として診療を続けることができます。つまり、自由に医師がクリニックとメディカルセンターを行き来できるのです。
ただし、他の一般的なオープンシステムのメディカルセンターが1500床の入院用のベッドを有するのに対して、VASDHSのメディカルセンターは外来専門であるため入院用のベッドは172床です。他の施設には扱っていないようなシステムや機械を有しているのでその対象となる患者さんを受け入れているとのお話でした。
外来は、100%院外処方ですが、薬局はメディカルセンターの中にあります。
一見院内ととらえてしまいそうになりますが、VASDHSが運営している独立した薬局なので、メディカルセンターで受けた処方せんを全く別の薬局へ持っていくことも可能です。しかし、メディカルセンターの中の薬局に持っていけば平均月8ドルで済むのでほとんどの方がこの薬局へ処方せんを持っていっていると考えてよいと思います。

調剤の効率化を促進する設備

  • 自動一包化マシーン
  • 麻薬管理マシーン
  • 液剤自動調整マシーン
  • ラベルには薬剤名称、濃度、期限とロットが記載されている。
  • 無菌室の自動経腸栄養注入マシーン
    たんぱく質などのカロリーを計算して自動で必要量入る。無菌室の混注は主にテクニシャンが行う。
  • コードを入れて取り出す。手術した人のためのサテライトに設置されており、ナースが取り出す。このサテライトには一人のテクニシャンが常駐している。

注射剤の混合のための設備

混注のための室内にはクリーンベンチと無菌室がありました。USP797という混注にまつわる設備や処置方法の取り決めがあり、それに則って主にテクニシャンが混注を行い、鑑査は薬剤師が行います。

【サテライト】

手術で必要になる薬剤の払い出しの効率化や入院患者さんへの24時間対応のために、中心となる薬局とは別にそのセクションでよく出る薬剤を集めたサテライト(小さい薬局)を 病院内へいくつも分散させています。例えば、集中治療室に対してのサテライトは鎮痛薬やステロイド、抗生物質を中心として用意してあるのですがほとんど散剤として払い出しを行うようです。注射の混合のためのクリーンベンチも設置されています。
一方で、手術室の近くのサテライトは麻薬を中心として用意してあり、テクニシャンが一人配属されているのみでした。また、日本の様に麻薬の廃棄の届出はアメリカでは必要ないそうです。ほかのサテライトでも調剤はテクニシャンが主に行いますが、サテライトにテクニシャンが1人いてくれれば充分であるということからテクニシャンが高い信頼を受けていることが伺い知れました。

外来患者のための薬局

薬剤師
6名 : 投薬、鑑査、患者からの電話応対、クリニックへの派遣
テクニシャン
8名 : 入力、調剤(調剤後自らでもバーコードで鑑査)
処方せん枚数
5~600枚(1時間に40枚)

【スクリプトプロ(Scriptpro):自動処方入力システム】

スクリプトプロはバーコードによる鑑査システムも含むだけでなく、今どの患者さんの薬をどの段階まで調剤されているのかが分かり、調剤済かどうか、疑義照会中で時間がかかっているということやメールでの処方せん受付であることも記載があるため業務の効率化にかなり役立っているシステムです。

【1時間ごとの業務交代】

薬剤師の業務は投薬、鑑査、調剤、電話応対に分かれますが、1日中同じ業務では集中力が落ちて能率が下がることを考慮し業務を1時間交代にしてシフトを構成しているとのことでした。電話応対に必ず1人つけているという点は日本と違う点であると言えますが、これは2回目以降がほとんどリフィル処方せんであることと、メールでの処方せん受付が多いため対面する機会が少ないことから必要性が高いのだと思われます。実際直接処方せんを持って並んでいた患者さんはほとんど初めての処方の方だそうです。

【薬剤師のクリニックへの派遣】

外来の薬剤師は薬局の業務の余裕のある時間帯に事前に決められた担当の薬剤師がクリニックへ派遣されます。主にクリニックへ通う患者さんのワーファリンのような抗凝固薬の投与に関する処方計画を客観的に評価するためですが、その他皮膚疾患やC型肝炎、糖尿病など多岐にわたって治療計画に関わっています。

薬剤師へのニーズの多様化

病院内を見学させて頂いたあとに、より専門性を活かした仕事を任されている薬剤師の方々の紹介をしていただきました。

【ペインマネージメント】

メディカルセンターのニコール先生は腰痛や癌性の痛みなどと戦う入院と外来の患者さんとのお話から効果と副作用を考慮して週に1回医師へ報告と使用量の提案をしています。痛みの度合いによっては麻薬も扱いますのでより専門的な知識も必要とされますし、患者さんとのコミュニケーションから痛みの具合を推し量る能力も必要になってきます。外来の場合はほとんど電話で話を聞くとのことで1日に20~30人の患者さんとコンタクトをとっているそうです。
毎週病院に来る必要がないこともあり、患者さんからは好評を得ているとのことでした。

【薬剤経済学:ファーマシーエコノミスト】

毎年次の年にどのような予算でどの分野の予算を抑えるかという点も専門的な知識が必要とされます。ガイドラインに沿って治療が行われているか、安全に使用されているかの判断を任されており、新薬は高額のためどの段階で使うかについて会議で話し合い、予算をはっきりさせることで目標を明らかにします。予算を明確化することで次年度の予算が受けやすくなるためです。

【薬剤遺伝子学専門薬剤師】

日本でもTDMは一般的ですが、メディカルセンターでは個別化した治療を取り入れる目的で、遺伝子に応じた治療も行われています。リウマチ治療薬として注目されている生物学的製剤なども高額ですが、薬剤費以外の面でも実験室でテストが必要となります。テスト自体が高額となるため、どんな患者さんを遺伝子治療の対象とするかを決めることが課題とおっしゃっていました。

感想

今回、サンディエゴのメディカルセンターのテクニシャンや薬剤師が一人ひとり自分から責任を持ち、前向きに働く姿を拝見して、責任を重荷と感じるどころか、課題と戦いながらも専門性を発揮できる喜びを実感しながら働いているように見えました。またそれと同時に、日本の薬剤師はアメリカの薬剤師に比べて能力を発揮する場が制限されていると感じました。
これは、国のシステムと薬剤師への信頼度の違いから差が生じてしまっていると考えられますが、例えばリフィル処方せんのシステムや投薬枚数の制限がなくなればアメリカのように同じ薬剤師でも能力に応じて業務も細分化されていく必要が出てくると思われます。

またテクニシャンも薬学的知識が必要になってくるためテクニシャン制度も導入されることも考えられます。日本もより薬剤師やテクニシャンの地位が高くなれば、 判断能力を持つ人材が増えるため効率が良くなり、治療上の有効性が高まることで満足度の高い医療につながっていくと思います。